「時代は第二次世界大戦のロシア、人類史上全ての戦争の中で最大の死者数を出したという独ソ戦に参加した女性兵士が主人公の物語」そう聞くと、ちょっと読むのが躊躇われるひともいるかと思います。私も初め思いました。

早川書房が主催するアガサクリスティー賞の最終選考で選考委員が全員が満点をつけ、満場一致で受賞作に決定した作品、とおすすめされても戦争ものは悲惨な描写も多いだろうし、外国が舞台だと地理や人物名がなかなか頭に入ってこないからプロが読んで面白いと感じても、素人には読みにくいんじゃなかろうか。と恐る恐る本を開いてみると・・・・面白い!!読み出す前に感じたことは全く問題になりませんでした。


ロシアの小さな村で猟師の母と二人で暮らす主人公セラフィマの穏やかな日常はドイツ兵の侵攻によって一変します。母を含む村人は無残に殺され、生き残ったセラフィマは復讐を誓い、狙撃兵として女性だけの狙撃部隊の一員として訓練学校に入ります。
そこでセラフィマは同じような境遇の少女たちと出会い、ともに訓練に励むことになります。
訓練を終え、戦場に出れば明日ともしれぬ身。この訓練学校時代の少女たちの日々がどれだけ貴重であったか読み終わった今は痛いほどわかります。

戦時中の女性は敵に捕まれば口にしたくないほど凄惨な目にあうこともあります。セラフィマは生まれ育った村でも戦場と化したスターリングラードでもそんな状況を目の当たりにします。そして「女性のために戦う」と心に決めるのです。この決意は男性がほとんどを占める軍隊という組織の中で最も困難で勇気あるものだと思います。

戦争に参加した女性兵士と聞くと、本が好きな方は2015年にノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの代表作『戦争は女の顔をしていない』思い浮かべる方も多いかと思います。もちろんこの本は参考文献として紹介されています。がそれ以上に小説の後半で大きな役割を果たします。私はこの大胆な試みに心をわしづかみにされました。
この演出が遠い70年前のロシアで生きた一人の少女の存在をぐっと読者に近づけたと思います。

著者の逢坂冬馬さんは、主人公セラフィマだけでなく、戦友である少女たち、女性教官、戦場で一緒になった兵士、市民、そして敵であるドイツ兵士も魅力的に生き生きと描写します。どの人も思い浮かべられるくらいに印象に残ります。きっと著者自身がすべての登場人物に丁寧に愛情をもっているからだと思います。
次回作が今から楽しみな作家ができました。


同志少女よ、敵を撃て
逢坂 冬馬/著
早川書房
2,090円(税込)円(税込)