中国武漢市の状況がカミュの「ペスト」に酷似していると話題になったのが、2020年2月初め。
3月にはイタリア、スペイン、パリなどのヨーロッパの国々やアメリカではニューヨーク市が次々にロックダウンし、現在日本も全国で緊急事態宣言がかかり、先が見えない状況が続いています。
「ペスト」はある朝、鼠の死体が見つかったところから始まります。
そしてあっという間に事態は悪化し、都市は孤立します。
家族や恋人たちが引き離され、医療は崩壊し、死者の数は増えてゆき、デマに踊らされ、人々は極限状態の日々を送ります。
まるで現実をなぞるかのような描写に読むのが苦しくなったりもすると思います。
ですが、なぜこの小説が今日本だけではなく世界中の人々に読まれているのか。
過去に書かれたものから答えを見出そうと考えるのは、一見矛盾しているようで、理に適っているのだと思います。
未知のウイルスに対してどう立ち向かっていけばいいのかも分からない中で、私たちはどう考え、どう行動するべきなのか。
この本を読むともちろん怖れも感じますが、どこか冷静な気持ちを取り戻せたようにも思います。
50年以上前に書かれた小説が、こうしてベストセラーに上がってくることが度々あります。
記憶に強く残っているのは「蟹工船」です。リーマンショックの影響でワーキング・プアが問題になった頃でした。
苦しい時こそ人々は文学に光を見出すのかもしれません。
読書離れが叫ばれる今日ですが、いまこそ "書を捨てず、家にいよう" を合言葉に活字を追ってみてはいかがでしょうか。