井上ひさし脚本のお芝居をご覧になったことはありますか?
ことばがぎゅうぎゅうに詰まったびっくり箱のように、幕が開いた瞬間から観る人の意識を舞台の上に釘付けにさせる井上作品は
現実を忘れさせてくれる、舞台ならではの魅力に溢れています。
井上ひさしは放送作家、劇作家、小説家と様々な肩書を持っていますが、共通するのは「言葉」を扱う職業ということ。
日本語に関するエッセイも数多く出しています。
創作のモットーは「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」このモットーを形にしているのがこの『ブンとフン』ではないかと思うのです。
売れない作家のフン先生が書いた小説の主人公、四次元の
大泥棒ブンが小説から飛び出した!
あまりに万能すぎる設定にしてしまったため、
小説の中から抜け出て現実世界に現れる能力すら身につけて
しまったのである。世界はたちまち大混乱!
だんだんと形あるものを盗むことに飽きたブンは、人間の見栄、虚栄心、記憶など、形のないものを盗みはじめ、最後に、人間が一番大事にしているものは「権威」だと見ぬき、権威を盗むようになります。こんなところは井上流の皮肉やユーモアが込められていてただのエンターテイメント小説とは一線を画していると思います。
実はこの物語、もともとはラジオドラマとして作られたもの。40年前に放送されたラジオドラマの一部がなんと今年の年始に放送されたのです。ブンを演じたのはなんと若き頃の黒柳徹子さん!コケティッシュで素敵なお声でした。
小説版『ブンとフン』は小説用に書き直されていて、ラジオ番組とは違う小説ならではの工夫がされています。
大泥棒ブンとそれを追う警察との攻防は果たしてどうなるのか?
日本語の魔術師・井上ひさしによる最上級の娯楽小説をご堪能ください。