職業柄、自分の周りにいるのは本が大好きという人ばかりですが、SF小説が好きという人にはそんなにお目にかかりません。
知らない用語が多いからか、科学知識が必要と思われているのか、あるいは単に興味がないのか。小説の一大ジャンルのなかでは残念ながらあんまり人気のカテゴリーとは言えません。
でももし、「ちょっとSFを読んでみたいな」と思っている人がいるならば、入門としてこちらの『老ヴォールの惑星』をオススメします。
全4編からなる傑作中編集です。いきなりがっつりとした長編は・・・と敬遠しがちな人でも大丈夫。著者の小川一水氏はライトノベルでデビューしたこともあり、語り口は軽快で親しみやすさもあります。
特に高評価なのは以下の2編
宇宙飛行士のタテルマは事故により海面しかない惑星パラーザにたった一人取り残され、救助が来るまで漂流することとなった。通信機は無事、飢えることも病むこともなく、外敵すらいないその星での遭難生活に心配事は全くない。ただ一つ、陸地の無い海を流され続ける彼の位置を特定することが不可能な点を除いては― 『漂った男』
「あの星には、きっと知的生命体がいる」かつてヴォールがそう教えてくれた―。宇宙のどこかにある高温のガスの星。そこの住人である生命体は、個として生き延びることよりも得た知識を他の個体に語り継ぐことを至上として生きていた。あるとき、自分たちの星が滅びゆく運命にあると知った住人達は、いつかの仲間が教えてくれた星に向かって信号を送り始める。ずっと引き継いできた知識を、そこにいるはずの誰かに受けとってもらう為に。 『老ヴォールの惑星』
どの話も独創的なアイディアに満ちていながら完成度が高く、読後に深い余韻が残る感動作です。
SFの魅力は自分が全く知らない、想像すらできない世界を垣間見ることができることにあると思います。
読めばきっと知的好奇心を刺激され、SFって面白いんだと思ってもらえるでしょう。