昨年の今頃、北関東の数か所の養豚場から豚が盗まれるという事件があったのを覚えていますか?
私はこの事件をニュースで見て、既視感がずっとありましたが、なかなか思い出せずにいました。
そして2020年9月この本が文庫化した際に「これだっ」と思わず声を上げていました。
作中では出産直前の母豚の胎内から子豚が一晩のうちに消えてしまうという、実際よりさらに謎めいた事件が起こります。
誰がなんのために?最近過激さを増している動物愛護団体の仕業なのか?
『命の天秤』と題されたこの短編は動物の命は人間より軽いのかという命題を突き付けてきます。
そのほか、臓器移植、安楽死、自殺など、「生命」の現場を舞台にした4つの短編が、最後の5話目の伏線になっています。
短編なのでどの話から読んでも構いません。でも、最後の5話目だけは最後に取っておいてください。
それぞれ独立した話だと思って読んでいたら、実はつながっていた。短編集だと思っていたら、実は長編小説だった。一番驚くのはそこかもしれません。
子豚の盗難もこの最後の短編でまさかの結末が判明します。
現実の事件は盗まれた豚は解体されて食べられていましたが、この小説での盗難事件の目的に読んだ人は間違いなく衝撃を受けると思います。
タイトルの『黙過』とは「知っていながら黙って見逃すこと」
このタイトルの意味が最後まで読むと重くのしかかってきます。究極の選択を前にして、あなただったらどうしますか?