滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』。
江戸期の大長編伝奇小説であり、現在に至るまで何度も映像化されてきた歴史的名著だ。
後年の小説、コミック、ゲームなど数多の作品に影響を与え、何人もの作家やクリエイターたちがインスピレーションを得てきた、いわば和製ファンタジーの金字塔として歴史上に燦然と輝いている。
里見家の伏姫、神犬・八房と、因縁により結ばれた八人(八犬士)たちの物語だ。

八犬士たちは最初、自分たちが何者かも知らず、市井で暮らし、罪人として繋がれ、あるいは虐げられ不遇を囲っている。
彼らは皆、苗字に「犬」の一字があり、体のどこかに同じような形の痣を持ち、仁義八行を表す珠を携えていた。
いつしか彼らは不思議な因縁に導かれ、自らの使命を知ることとなる――

そしてこの『八犬伝』を、『スプライト』『ワンダーランド』の石川優吾がコミックとして描いたのが、本書『BABEL』だ。
時に原典に忠実に、時に大胆にアレンジされた物語は、見事な作画によって読むものを魅了する。
繊細な描画は作品の美しさ・妖しさを表現し、荒々しい筆致は場面の残酷さ・苛烈さを描き出す。

妖婦・玉梓をはじめとする敵や日ノ本の国を覆う暗い影の裏には、西洋の「悪魔」が見え隠れする。
日本は西洋から、鉄砲やキリスト教だけでなく、一体何を招き入れてしまったのか...
物語の舞台も薩摩から琉球王国、そして現代の日本と、時間まで飛び越えてしまう驚愕の新解釈。

原典は98巻にも及ぶ長大な物語だ。『BABEL』ではそれをどのように描いていくのか。
滝沢馬琴が失明しながらも半生を費やして物語を完結させたように、『BABEL』も大団円を迎えられることを願ってやまない。

BABEL
石川優吾/著
小学館
1巻 607円(税込)     2巻~ 650円(税込)