5月4日、ハードボイルド小説家の原尞氏が死去しました。
原氏は1988年に私立探偵沢崎を主人公にしたデビュー作「そして夜は甦る」が高く評価され、翌年発表した「私が殺した少女」で2作目にして直木賞を受賞した、日本を代表するハードボイルド作家です。
また、大変に寡作で遅筆な人物としても知られており、デビューからの34年間で書き上げた小説は長編が5作に短編集が1作、2018年の「それまでの明日」は前作から実に13年ぶりに刊行されたもので、それが遺作となりました。
その6作はすべて同一主人公の沢崎シリーズと呼ばれるものです。
他人の名を冠した事務所を構え、両切りの煙草をいつも離さず、持ち込まれた依頼をこなすためにどこか陰鬱で冷たい雰囲気の東京を歩き回る探偵沢崎。警察やヤクザ相手に屈せず、大金を提示されても信念を曲げない、いかにもハードボイルドといった男ですが、一番の魅力はその台詞にあります。
海外翻訳のもを意識した文体で書かれる、シニカルでテンポのいい会話のいくつかは、物語を読み終えた後も心に残ります。
本作のあとがきによれば、次作はすでに書き始めていたとのこと。それを目にする機会が失われたことが一読者として残念でありません。