夜の美術館といえば映画「ナイトミュージアム」を思い出す人も多いと思います。もしも夜の美術館や博物館であんなことが起きていたらと想像するだけでわくわします。でも私にとって"NO1夜の美術館"はこの曲です。NHKの『みんなのうた』で放送された大貫妙子さん「メトロポリタン美術館(ミュージアム)」

今でもそらで歌えるくらい大好きな曲です。バイオリンやトランペットのケースをトランク代わりに使うなんて、なんて素敵なんだろうと子ども心に思っていました。

実はこの曲にはモデルがあるってご存知でしたか?それが今回ご紹介する「クローディアの秘密」です。

 
クローディアは11歳、9歳の弟ジェイミーを連れて家出を敢行します。『あたしの家出は、ただあるところから逃げだすのではなく、あるところに逃げこむのにするわ』と、大きくて気持ちのよくて、屋内、そのうえできれば美しい場所がいいと選ばれたのがメトロポリタン美術館です。

二人はお金を持っているの?クローディアが弟のジェイミーをお供にした理由はそこにあります。ジェイミーはおこずかいをちゃんと貯めていて姉はそこに目をつけたのです。本の中でもタクシーを使いたがる姉に対して歩くよう諌めるシーンがあったりとジェイミーの金銭感覚がかなりしっかりしていることは読み取れます。

この時代、メトロポリタン美術館の入場料はだれでも無料。今は大人一人30ドルなのでうらやましい限りです。そのおかげもあってか姉弟は充実した家出ライフを送ります。昼間は観光客に交じって美術館ツアーを楽しみ、時には外にお昼ご飯を食べに出たり、バイオリンとトランペットのケースに詰め込んだ下着を洗濯するためコインランドリーに行ったりもします。決して自堕落ではなく、ちゃんと生活しているところに二人の賢さだったり、お行儀のよさがうかがえます。クローディアは美術館のことをおぼえるという宿題を自分と弟に課します。その調べもののために図書館にも出かけます。


ところでこの「クローディアの秘密」原作のタイトルは「FROM THE MIXED-UP FILES OF MRS.BASIL E.FRANKWEILER(フランクワイラー夫人のごちゃごちゃになったファイルから)」

冒頭もフランクワイラー夫人の手紙から始まります。フランクワイラー夫人とはいったい誰なのか?ふたりの家出と関係があるのか?それは読んでいくうちに分かります。クローディアの探究心が物語を繋いでゆくのです。『みんなのうた』からは決して予想できない展開に驚くばかりです。

この邦題の『秘密』とはいったい何なのか?これもわかった時この邦題をつけた翻訳者の松永さんすごい!と思うはず。クローディアが「秘密」について語るシーンがあるのですが、この秘密の定義が辞書に載せてほしいくらい素敵なのでぜひ楽しみにお読みください。

天使の像やミイラと踊ったりも、絵の中に入ったりもしない、けれど飛びっきりわくわくして胸がいっぱいになる一冊です。

クローディアの秘密
E.L.カニグズバーグ
岩波書店
748円(税込)