考えない、行動しない、という罪
世論形成の闇を描いた絵本
金色のたてがみのライオンは、自分の美しさだけを愛していた。
傲慢、自己愛過多でルッキズムの権化のような存在である。
国王が病臥するにあたって、金のライオンは自分こそが次の国王であるべきだと考えた。
銀色のたてがみのライオンは、非難の余地のない善人で、勤勉。周囲の者に献身的に尽くし、見返りを求めなかった。
そして周囲の者は銀のライオンこそが次の国王にふさわしいと考えていた。
それを目の当たりにし危機感を抱いた金のライオンは、銀のライオンの、嘘の悪評をまき散らし始めた。
はじめは誰も信じなかった。
しかし、その悪評は伝達を繰り返し、変質しながら拡散していく。
やがて銀のライオンの悪評は大半の者に真実として認識されるようになり、金のライオンが国王となってしまった。事実を知るものが声をあげても、大勢に飲み込まれて誰にも届かない。
金のライオンは暴君となった。そして、物語は悲惨な結末へ向かう。
まさに、世論形成の悪しき構図である。ネットやSNS上で繰り返し起きていることでもあり、傷ましい結果につながることは少なくない。自らのコミュニティの中でも起きうることだけに、情報リテラシーを高めることの重要性を身に染みて感じる。『二番目の悪者』はそれを教えてくれる絵本といえるだろう。
だが、この絵本が描いている主題はこれだけではないように思う。
それは言うなれば"民主主義の陥穽"ということになるだろうか。
絵本の中の世界は専制的な王政ではあるものの、国民の意思が為政者の選出に反映されていることが読み取れる。つまり、国民が自らの手で自分たちを脅かす存在を国家元首に選んでしまった、いわば参政権を持つ国民が果たすべき責任についても触れているのではないだろうか。
国会議員に足る資質を疑問視された議員が除名処分を受けたニュースも記憶にあたらしい現在、自らが"二番目の悪者"にならないよう、強く自戒したいものだ。その意味でも、物語の半ばで雲がこぼした箴言は忘れられないものとなった。
「嘘は、向こうから巧妙にやってくるが、
真実は、自らさがし求めなければ見つけられない」