ーぼくはうしだから もうじきたべられるのだそうだー

 

 ともすれば、衝撃的な一文から始まるこの絵本は、夕暮れ時を思わせる絵の色合いも相まって、どこか悲し気な「影」をともなっている。

 

 自分の命をつなげるために、他の動物や植物を糧とする。つまり、「生きる」ために「命」をいただく・・。それは、避けて通れないことである。

 

 他者の糧になると決まった「うし」は、せめて大事な人に一目だけでも会いたいと、生まれ故郷の牧場に足を運ぶ。その道のりは、自身の振り返りの時間であり、故郷にいる大事な人を偲ぶ時間でもあった。

 

 もし、自分に残された時間が、限りのあるものだとしたら・・。

 この「うし」のように、自らの運命を受け入れて、達観することはできるだろうか。

 

 故郷に足を運んだ「うし」の、最後の選択と、夕焼けの空に映りこんだメッセージは、様々な感情をともないながら、胸を打つことだろう。

 

『もうじきたべられるぼく』
はせがわゆうじ
中央公論新社
1,540円(税込)